電気メスは高周波電流を体に流し、その電流による発熱を利用して生体組織を切開・凝固する手術用の医療機器です。皆さん知っての通り、金属メスでは実現できなかった止血しながら切ることを実現した現在の医療には欠かせない機械です。
しかし、
「いつも使用しているけどどんな危険が潜んでいるか実は知らない。」
「禁忌はなんとなく知っているけどなんで危険なのかわからない。」
「そもそも体に電気を流しても大丈夫なの?」
と今更聞けなかったり、知らないまま使用している人も多いのではないでしょうか?
特にDr.は自分は使うだけで切れればいいと思っている方も多い印象を受けます。(個人的な意見ですが…)安全性の面はNs.や臨床工学技士に任せている施設も多いと思います。
なのでコメディカルの皆さんここでもう一度「電気メスの危険」をおさらいしましょう。
電気メスによる熱傷事故とその対策とは?
電気メスのよる問題点は以下の4つに大別されます。
- 熱傷
- 爆発
- 感電
- 雑音
その中でも一番多い事故報告として熱傷が挙げられます。今回は熱傷が起こる原理とその対策についてお話します。
なぜ電気メスは切れる?
電気メスが組織を切開する原理として重要なのが「ジュール熱」です。
例えば、電球を触ると熱いですよね?これは電球の中の導線に電流が流れてそこから熱が発せられているからです。これを電気メスに置き換えると電気メスの先から電流が組織に流れそこで熱が発生し、それによって切開が可能となります。この時の熱がジュール熱です。(厳密にはジュール熱と放電熱によって切開が可能となりますがここでは割愛します)
電球の導線の話に戻ります。電球の導線は導線全体が熱くなるのに人の体では全身が熱くならないの?と思った人もいると思います。これは次に説明する「電流密度」が関係しています。
電流密度と熱傷の深い関係
電流密度とは言葉の通り電流の密度です。狭い道を電流が通るときは電流密度が大きく、広い道を電流が通るときは電流密度が小さいと理解していてもらったら大丈夫です。先ほどのジュール熱はこの電流密度が大きいほど大きな熱を発し、小さいほど発する熱も小さくなります。
例えば1mAの電流が電気メスのメス先から組織に流れるときは電流の通り道は狭いので電流密度が大きくなり大きな熱が発生します。次にメス先よりも大きい道である体内に電流が流れていきますのでその時の電流密度は小さくなりジュール熱も小さくなります。なのでメス先から組織までで大きなジュール熱が発生し組織を切開することとなります。
電流密度が大きくなってしまったところ(電流の通り道が狭いところ)で熱傷が起きることになります。
逆に電流密度を小さくすれば熱傷は回避できることになります。
電気メス(モノポーラ)使用時は対極板を使用しますがこれは電気メスからの電流を回収すると同時に大きな面積で電流を回収することで電流密度を下げています。熱傷事故ではこの対極板の剥がれなどが原因になることもあるので気を付けてください。
熱傷の原因は?
熱傷の原因は上記で説明した高い電流密度です。では実際にどのような時に電流密度が高くなるのかを示します。
- 接触不良を起こした(剥がれかけの)対極板
- メス先電極コードなどが体の下敷きになってしまったとき
- 体に接触したアースされた金属部分(ベッド柵など地面に繋がる金属)
- 体の部分同士が小さい面積で接触した部分
電極コードに関しては目視確認で気を付け、アースされた金属や体の部分同士の接触に関しては乾いた厚手のタオルなどを挟むことで対策ができる。しかし対極板に関しては熱傷事故の報告も多く、手術中見えないところで電流集中が起こっている可能性があるので特に注意が必要です。
対極板部での熱傷このパターンは気を付けて‼
- 対極板の剥がれ、移動による接触面積低下
手術中に体位変換が行われたり、対極板コードに無理な力が加わったりすると対極板が剥がれて体との接触面積が小さくなり、電流密度が大きくなり熱傷の原因となる。
- 不適切な部位への装着による部分接触
肩甲骨部分など骨の突き出た部分に対極板を装着すると、中央部部が体と接触せず周辺に電流が流れ、結果的に電流密度が上昇する。
- 不適切な装着による中央部の浮き上がり
対極板をサージカルテープなどで引っ張りながら上から補強すると対極板基盤フォームやテープが弾力で縮んで中央部が浮き上がることがある。それによる接触面積が小さくなり、熱傷の原因となる。
補足
「指輪が取れないときはどうしたらいいか?」
たまにこんなことも質問されます。もちろん金属なのでできる限り外してください。でも取れないときは、そのままでも大丈夫です。
ここまで読んでいただいた方ならもうお分かりだと思いますが…
なぜなら取れないほどしっかり体にくっついているのなら電流密度は大きくないはずだからです。
終わりに
どうでしょうか?これで明日からさらに安全な電気メスの管理が出来ると思います。
理屈がわかれば禁忌もわかる。何が安全で何が危険かを理論的に考えて臨床に生かしていただければと思います。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
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